こんにちは。今から30年ほど前、私は新卒で赤井電機株式会社という企業に入社しました。オーディオ・ビデオ・電子楽器を製造し世界各国で販売していた会社です。今回は、その赤井電機が企画・開発・販売し、世界の音楽シーンを変えた「MPC」という楽器についてのお話です。

とても働きやすかった赤井電機の社内

この赤井電機は当時一部上場、社員700人、世界各地に現地法人も持っていました。私は自ら希望してオーディオ部門で海外営業の仕事をしていたのですが、入社後2年で「音楽活動に専念したいので申し訳ありませんが辞めさせてください」と退職しました。社内は全然セコセコしたところがなく、人に恵まれた、働きやすい良い職場でした。そしてかなりのんびりしていました。ヨーロッパ担当の先輩は午前中だけ仕事をして、午後はいつも英検の勉強をしていました。しかし、オーディオブーム終焉の影響は避けられず赤井電機本体は2000年に倒産、かろうじて残った電子楽器部門も2005年に倒産しました。

世界の音楽シーンを変えた「MPC」

赤井電機はオーディオの世界では特にカセットテープレコーダーというカテゴリーで特によく知られていました。が、この会社にはもうひとつの顔がありました。それが電子楽器部門です。「サンプラー」というカテゴリーを開拓し、名器を多数輩出。さらに「MPC60」というサンプラーとシーケンサーが一体化した新カテゴリーの電子楽器を1987年に販売開始、その後も後発機を発表し続け、ヒップホップと呼ばれるジャンルでクリエイターたちの圧倒的な支持を得ます。そのあたりの経緯は以下の本に詳しい解説があるのですが、赤井電機のMPCがヒップホップを支えていたというのは紛れもない事実でしょう。

MPC IMPACT! テクノロジーから読み解くヒップホップ

実は私も今年初めの発売と同時にこの本を手に入れて読んだのですが、改めて「MPCがなければ現在の音楽シーンはなかっただろう」と非常に感銘を受けました。そして、自分のかつての勤務先が発明し、世界の音楽シーンを変えた名機「MPC」を自ら所有したいと思うようになりました。

どのMPCを買うべきか

さて、そうと決まればまずは機種選びです。このMPC、実は赤井電機が倒産した今も発売され続けています。アメリカの会社がAKAIブランドを買い取り、MPCを造り続けているのです。現在のAKAIのサイトを見ると、相当に進化したMPCが開発・販売されていることがわかります。

ただ、私としては赤井電機といえばこのロゴなんですよね。。まさに、私が入社したときのロゴです。

となると、MPC4000、MPC1000、MPC2500、MPC500、MPC5000等々…は全て対象外となります。そして最終的に購入対象としたのがMPC2000XLという機種。

私がMPC2000XLを選んだ理由は以下です。

  • 「赤井電機株式会社」が存在していた時代の製品(実際に私の同期入社の友人がファームウェアを作っていました)。
  • 機能的にもバランスがとれている。
  • ユーザーが多く、ネット上に情報が豊富にある。
  • いまでもパーツ類をネットで探せる。

MPC2000XLの探し方

MPC2000XLが発売されたのは1999年ですので、いま購入するとなるとヤフオクやメルカリで探すことになります。

ヤフオクでMPC2000XLを検索>>>

メルカリでMPC2000XLを検索>>>

という状況で私が購入したのは

  • メモリは16MBに拡張済み
  • オプションの8パラアウト付き
  • 日本語マニュアル付き
  • フロッピーディスクモデル
  • 液晶を青画面に交換済み(真偽の程は分かりませんが、青なら画面焼けしないという噂あり)

上記をメルカリで手に入れました。

日本語マニュアルは必須

上記セットを買って一番良かったと感じたのは「日本語マニュアル付き」だったことです。ヤフオクでの出品を見ていると、たまにマニュアルはPDFで提供と書かれている商品があるのですが、購入直後はマニュアルとにらめっこしながら使い方を覚えていくと思います。そんなときにPDFではとても間に合わないはず…パラパラとめくれる、紙のマニュアルが必須だと思います。

MPC2000XLの記憶媒体

また、私が買ったモデルの記憶媒体はフロッピーディスクだったのですが、サンプリングした音を保存しようとするとフロッピーディスクでは正直まったく実用に耐えません。ただし後述するファームウェアアップデートにはフロッピーディスクドライブが必須なので、このモデルを買って正解だったことには違いないと思います。

改めて調べたところ、MPC2000XLで使える記憶媒体としてはフロッピーディスク以外に以下があるようです。

  • ハードディスクやMO(SCSIによる外付け)
  • Zipディスク(本体標準搭載 or SCSIによる外付け)
  • SDカード/コンパクトフラッシュ(CFカード)等(本体標準搭載 or 改造で後付け)

最初にSCSI接続のハードディスクやMOをヤフオクとかで探したのですが、なかなか見つからないのでやめました。それにディスクトラブルがあったときの対応も難しそうです。

また、MPC2000XL-MCDというSDカードやコンパクトフラッシュなど6つのメディアに対応したモデルも後から発売されたようです。もしこのモデルをヤフオクやメルカリで見つけることができたら即買いかもしれません。

なお、MPC2000XLのフロッピーディスク部分にSDカードリーダーに交換するキットを発売している会社もあります。アマゾンで売っています。アマゾンで「MPC2000XL SD」で検索してみてください。
↑交換方法の写真付き説明が以下のページにありました。
AKAI MPC2000XL 専用 HOT SWAP対応 SDカードリーダー/ライター取付キットを使ってみる。

SDカード化は非常に魅力的でしたが、結局どうしたかと言いますと、予算の関係とかもあり、Zipドライブを外付けすることにしました。これもメルカリで購入です。あわせてZipディスクもメルカリで購入。

Zipドライブを購入する際に注意すべき点としては、SCSIケーブルが付属しているかどうかです。いまの時代にSCSIケーブルを探すのも面倒そうなので、できるだけSCSIケーブル付きのものを探したほうが良いと思われます。

ということで、やっと曲作りに取りかかれる環境ができました。

いろいろな楽器やパソコンからの音源をすぐサンプリングできるよう、MPC2000XLの前にミキサーを繋いでいます。

MPC2000XLのファームウェアアップデート

なお、MPC2000XLにはファームウェアが2種類あります。最終版はVer1.2で、私はそれをヤフオクで買いました(あらかじめフロッピーディスクに保存されたファームウェアVer1.2をヤフオクで売っている人がいます)。ファームウェアVer1.2はネットからダウンロードすることもできるのですが、私の場合それをフロッピーディスクに書き込む方法がないためです(パソコンに繋げられるフロッピーディスクドライブを持っていませんので)。

AKAI MPCで作られた楽曲たち

実際にどんな曲がMPCで作られたのかをご紹介します。以下、前述の「MPC IMPACT!」で紹介されていた著名音源の数々をSpotifyのプレイリストにまとめてみました。

MPC2000XLの使い方

前述のとおり、MPC2000XLの使い方はネット上に多数記事があります。YouTubeにもたくさんありますのでぜひ探してみてください。以下に一部ご紹介します。

RaputaHeaven 2000XL再考察
MPC2000XLの使い方のポイントをうまくまとめて頂いています。感謝!

Art of Sampling lesson 1 : MPC2000XL

こちらの過去ログを読むのも楽しいです。MPC2000XLユーザーさんたちのBBSです。
Jack the beats!! MPC2000XL BBS

MPCやヒップホップをめぐる書籍のご紹介

MPC IMPACT! テクノロジーから読み解くヒップホップ
この記事の最初にご紹介した本です。MPCを中心に、ヒップホップの歴史とそれを支えた電子楽器について詳しく書かれています。MPC2000XLのファームウェアを書いた私の友人のインタビューもちょこっと出ています。

J・ディラと《ドーナツ》のビート革命
MPC使いとして世界に名を馳せたJ・ディラの物語。

ヒップホップ入門書としてはこちらが面白いです↓↓↓

文化系のためのヒップホップ入門
この本には続編があり、現在Vo.3まで出ています。

Behind the Beat: Hip Hop Home Studios
ちょっと変わった視点でこういうのもあります。2000年頃のHipHopプロデューサーたちのスタジオの写真集です。洋書です。これもメルカリで安く見つけて購入したのですが、MPCを使っている人が多いです。

その他MPCマニア向け

MPCマニア向けにこのようなお店もあります。
GHOSTINMPC
愛機をカスタムペイントしてくれます。

さいごに

私は大学4年生の時、この赤井電機以外にコルグという電子楽器メーカーからも内定をもらっていました。コルグも現在、世界的な楽器メーカーとして大活躍されていますが、私は赤井電機を選んで良かったな〜と感じています。このMPCという歴史に残る名機を産み出した会社ということもありますが、入社後すぐ海外営業に配属となり、ビジネス英語の基本を日々の業務を通して学ぶことができたのは私の中で非常に大きいです。そのおかげでシリコンバレーに住むこともできましたし、いまでもなにかと役立っています。

以上、赤井電機とMPC2000XLに関するお話でした。お読みいただきありがとうございました。